抗甲状腺薬と甲状腺ホルモン薬との併用
両者は薬理学的に見て相反する作用をもつ薬剤ですが、以下のような目的で併用されることがあります。
■抗甲状腺薬投与にもかかわらず、TSAb価が低下しない場合
抗甲状腺薬の服用によって甲状腺機能が正常化してくると、血中TSAb価も低下し、陰性化の傾向を示しますが、なかには甲状腺機能が正常化してきてもTSAb価が依然高値を示している場合があります。TSAbの陰性化が起こらないまま投薬を中止すると再発しやすいので、このような場合にメルカゾールの投与量を減量しないで、、その免疫抑制効果、即ちTSAb価の低下消失を期待し、同時にメルカゾールによる甲状腺機能低下症状の発現を防ぐ目的でチラージンSを併用します。
■治療により寛解しているが、TSAbが高値を続けている妊婦
外科的療法やアイソトープ治療により寛解している患者の多くはTSAb価も正常化していますが、なかにはバセドウ病は寛解しているのに依然としてTSAb価が高値を示している場合があります。このような患者が妊娠すると、母体のTSAbが胎盤を通過して胎児の甲状腺を刺激し、胎児に甲状腺機能亢進症を発症させる恐れがあります。このような場合、メルカゾールとチラージンSを併用すると、メルカゾールは胎盤を通過するので胎児の機能亢進を抑制し、T4は胎盤を通過しないので胎児には影響を与えず、寛解している母体のメルカゾールによる甲状腺機能低下を防ぐことができます。
■抗甲状腺薬の投与量の調節が難しい場合
漸減療法によって維持量に到達したかにみえたが、抗甲状腺薬を1錠に減量すると甲状腺機能が低下し、2錠に増量すると甲状腺機能が低下するという調節が難しい場合に、2錠のままにして、甲状腺機能の低下症状の発現を防止するためにチラージンSを併用します。
また、良好な経過をたどっているにもかかわらず、甲状腺腫が腫大してくる場合があります。これは抗甲状腺薬の過剰投与による甲状腺機能低下でTSHの分泌上昇によるものと考えられます。このような症例では、しばしば抗甲状腺薬のみによる調節が難しく、TSHの分泌を抑制して甲状腺の腫大を防ぐ目的でチラージンSの併用を試みる方法があります。
薬剤師のための服薬指導 -抗甲状腺薬Q&A− 伊藤病院 元薬局長 永井 育三 神谷書房 より